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『シンプルかつ、重厚』～大阪・道頓堀～

【はり重カレーショップ】

大阪─言わずと知れた（くいだおれ）の街である。
その解釈は人それぞれであるが、自分としてはただうまいものがたくさんあるだけではなく、その底辺の大きさ・底の深さがこの街を支えているものだと信じて疑わない。
それは大阪を代表するもうひとつの素晴らしい文化、笑いにも共通する。桂米朝師匠のように人間国宝になられるような方もいらっしゃるかと思えば、魚屋さんやお漬物屋さん等の軒先、家に帰ればおかんと息子の間でと街のあちこちに掛け合い漫才が溢れており、街全体が笑いに包まれている。最近全国ネットにもたくさん出演している漫才師「中川家」も、漫才の大きな栄冠を手にするかなり前から、むちゃくちゃおもろかった。どんなにあがいても、笑いで東が西を上回ることは絶対ないと断言できる。ん！？　　これは食べ物のコラムですよね･･･失礼！
まぁなにはともあれ僕はこんな大阪の街が大好きだ。

この日、自分は上司に同行して大阪は住吉区にあるA社に赴き今後の販売強化のための戦略を入念に打ち合わせた。熱を帯びた打ち合わせは夕方にまで及び、おなかもちょうど空いてきた。営業のY氏・K氏は何度も当社を訪れてくれており、我々のごはん好きを理解してくれている人なので、そのあたりの段取りもバッチリ！手元には既に「うわべだけのお店紹介は、もういいんです。大阪本」なる情報誌が･･･。その中から上司の鋭い食勘で、一品が選ばれた。「はり重カレーショップ」の「ビーフワン」。うん！見るからにうまそうだ。満場一致で今夜の対戦相手が決定！

なんば道頓堀の戎橋を御堂筋に向かって歩いて行くと、創業80年以上だという重厚な建物の「はり重」という老舗の精肉店が現れた。「高そうやなぁ～」と思いつつその角を曲がると、お目当てのお店が御堂筋に沿って鎮座していた。肉の老舗のカジュアル店という位置付けで建てられた店内は、食堂や洋食屋さんとも違う雰囲気があり歴史を感じさせてくれるなんともいい感じだ。僕らは隅っこの四人掛けテーブルに陣取り、「ビーフワン」をよっつ注文。他にもビーフカレーや定食もんなどがあるが、肉をおいしく食べるためにメニューを厳選してあるのだろう、そんなに多くはない。そんなシンプルさもここの魅力やと感じた。

運ばれてきた「ビーフワン」は牛丼でもなくカツ丼とも違う、一言でいうなれば他人丼。シンプルな具材達（卵・タマネギ・ねぎ・山椒）が皆でメインの牛肉を盛り立てながらも、その上自分を主張しようとどんぶりの中で待ち構えている。僕はいつもいきなりメインにかぶりつくことはない。脇役達の味をまず味わうことが楽しみで、一口目の照準をタマネギにあわせた。飴色のタマネギはシャキシャキした食感を残しながらも、甘みがジュワ～と口いっぱいに広がった。そのうまみがウォーミングアップを一気に終わらせ、いきなり戦闘体制にさせてくれた。それでも冷静に今度は肉のみを外したごはんをガッと放り込み、あえてワンクッションおいた。口がまろやかになったところに小刻みに震える箸でお肉を一切れ。これがまたほんまにやわらかくてうまくて、他の仲間達とも相性バッチリ！てっぺんには山椒がパラパラッとかかっており、口と鼻を両方から刺激してくれる。時折スーゥと抜ける山椒の香りに後押しされ、シンプルかつ重厚などんぶりはその姿を見る見るうちに変えていった。ふと他の三人の動きにも目を止めてみると、みんなに共通することがあった。それは、この「ビーフワン」どんぶりとお漬物のセットなので、みんな片手にどんぶりを持ったまま食べ始めから終わりまでひと時も放さないのである。スーツ姿の四人が合わせ鏡のように一心不乱にどんぶりを食べる姿は、我事ながらさぞ滑稽であったろうと思う。

食べ終えてレジに精算に向かう。レジにはこのお店の守り神のような佇まいの女性が、常に店内のお客さんの動きや従業員の方々に目を配り優しく見守ってくれている。レジスターもひょっとしたら創業時から使ってそうな、骨董マニアなら喉から手が出そうなほどの品だ。（と思う。）レジ待ちのお客さんがいなかったので聞いてみた。

「なんでビーフワンというネーミングなんですか？」

「それはねぇ、お肉とお椀というところからつけられたんよ。単純やけどね。それとここのお肉は一番やという意味も含まれてるけどね！」

なるほど！
名前までシンプルかつ重厚。

食堂メモ

店名	はり重カレーショップ
住所	大阪市中央区道頓堀1-9-17
休み	火曜日
TEL	06-6213-4736
営業時間	AM11：30～PM9：00