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『懐旧のオムライス』～香川・高松市～

【おなじみ】

先月、オムライスの美味しい店の話で営業部S氏と少し盛り上がった。
わたくしが高校生のころ大変お世話になった（お世話になったといっても特別にお勘定をまけてもらったというわけではない）洋食屋【おなじみ】のことである。
わたくしの記憶では、ここのご主人のつくるオムライスは、手際の良さ、見た目、味どれも芸術品だった。そのほか、貧乏な腹ペコ高校生には嬉しい、安くて美味しいメニューが沢山あった。
そんな話をしていると「懐かしいわぁ」だけでは終わらないのが、わたくしの食い気根性というのか、なんというのか…。
あらためて当時の味をあじわい、今の自分がどんな風に感じるか自分自身確かめたくなった。
気がつくとお昼の瓦町（かわらまち）へと向かっていた。

ここ10年程で瓦町駅周辺は、目まぐるしく変わった。
特に駅ビルはそごうから天満屋と移り変わり、それに合わせて常盤街（ときわがい）商店街も随分真新しくなった。
そんな駅周辺の中で当時とほとんど変わらない情緒を残す栄筋商店街（フェリー通りの一本東側）のたぬき横丁の中に【おなじみ】はある。
同じ通りの中に今回は紹介しないが南地食堂というディープな雰囲気の食堂もあり、わたくしにとってはなじみの通りなのである。

昼１時ごろ瓦町に到着。今日は金曜日。
なぜ金曜日かというと昔わたくしが通っていた当時と違い、例のオムライスは、火・金曜日以外は食べられない貴重な存在になっていたからだ。
ご主人がしんどくなったからかどうかは定かではないが、金曜日に行く理由はそのためだ。
入口のドアを開けると中は満員御礼状態。
中で席に着けず立って待っている人達が５人。
ピーク時間は外したつもりがこの大盛況。火、金しか食べられないのが、かえって人を呼んでいるようにも感じた。
５分程、表で待ち２組のお客さんが帰ったところで再度入店。
ご主人の少しかすれた、「いらっしゃい」という声が懐かしい。

店内は、オープンキッチンを中心にＵ字型のカウンター席のみ。
15人ぐらいでほぼ一杯になってしまう。
席に着くまでの間、メニュー表の昔と変わらない献立に当時を思い出しながら周りのお客さんをふと見ると、ほとんどのお客さんがオムライスを注文しているのが分かった。
一応タイムランチも用意しているのだが、この火、金にオムライスを頼まない人は、よほどここのオムライスを食べ飽きた人か、変わり者と疑われるほどの雰囲気である。

わたくし「オムライスと“骨抜き”」お願いします」主人「ゴメン“骨抜き”は、オムライスに追われて油の準備が出来てないんや、10～15ぐらいかかるけど」（頼むから今は頼まんといてくれ）というご主人の叫びを察知し、わたくし「じゃ、オムライスだけでお願いします」（ん～、残念） “骨抜き”とは鳥の骨抜き肉を、から揚げでもなく、天ぷらでもない、フリッターぐらいの状態にして揚げたこの店の定番商品なのだ。
当時からよくオムライスとセット注文していた、オムライスの次にこの店のはずせない定番だけに残念でならない。
あとからのお客さんも数人この“骨抜き”を注文していたが同じように諦めている様子だった。

注文から5分ほどでオムライスの登場。
今回のメインはオムライスなのだと言い聞かせ、気を取り直して食べ始める。
まずその姿は以前と変わらない昔ながらのオムライスだった。
どのあたりが昔ながらかというと、最近は半熟状のトロトロ卵をのせているオムライスが非常に多くなったが、ここの卵は薄く、ごはん全体をやさしく包んだ状態のことを指して。
卵とごはんを一緒に食べると卵の存在は余り感じないほどあっさりした味わい。
ソースもこてこてのデミソースではなく、非常にあっさりしていることに気がつく。
それでいてボリューム感が無いわけではない。
ごはんの量も結構あるが、ごはんの味付けがしっかりされているのだ。
メニューにチキンライスもあるのだが、そのケチャップと塩コショウでしっかり味付けされたケチャップライスだけに、卵とソースがこれだけあっさりしていても満腹感があるのだろう。
自由に取れる福神漬（赤いほうじゃなく黒いほうが好み）と一緒に食べると微かな酸味との相性はこれまたグー。
食べ終わるまでの所要時間は約5分（ちょっと早すぎか…）

当時、よく土曜日の学校帰りに寄る事が多かった。
お金のない高校生が4、5人で行き、一つの楽しみでジャンケンをし、勝った奴が全員からゴチになるということをこの店でやっていた（最近某番組で良く似たことをしているが）。
お金が無いのでそれはもう死ぬ気で支払時にジャンケンをしていた当時の風景を思い出しながら店を出た。

あれだけ多くのお客さんを魅了するこの店の魅力は何なんだろう？
特別なものは何もない。いやその特別で無いことがこの店の最大の魅力なんだろう。
オムライスに象徴されるように、特別贅沢な食材を使った特別なメニューは何も無い。
しかし家庭料理のような何時でも安心して食べられる飾り気の無い魅力がそこにはあった。
なぜかまた行きたくなる、「大衆食堂」とは、本来そういうところなんだろう。ご馳走さまでした。　　

※オムライスの写真を絶対撮るつもりでカメラを持参して行ったはいいが、めちゃくちゃ混んでいる上にちょっと忙しさで店も殺気立っていたのでとてもでないが写真を撮る勇気がなかったのでお店に行って実際に確認して下さい。

食堂メモ

店名	食堂「おなじみ」
住所	高松市瓦町２丁目（天満屋１Fのスターバックスから北へ徒歩30秒）
休み	月曜日
TEL	087‐861-7639
営業時間	AM11:30～PM2:00 PM5:00～PM9:00