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『魅惑のキムタマ丼』～徳島・池田町～

【どん】

はじめまして営業部のＳです。といっても過去このコラムの「レストランゆず庵」編、「穀物学校」編に登場した「営業部Ｓ君」とは別の最後のＳです。実はうちの会社の営業部には、３人の精鋭（？）がおりまして３人ともイニシャルがＳなのです。その中で一番珍しい名前のわたくしＳが、今回コラムに初挑戦（なかば強制的な上司からの業務命令で？）させていただきます。

この日わたくしは担当している池田町の病院に伺っていた。ところが栄養士さんが来客中で少し時間がかかるということで、病院に車を停めたまま（すみません）近くの駅前商店街（正式名称かどうかは未確認）を歩いて散策することにした。
気分は「ふるさとZIP探偵団」（関西ローカル番組）の一員。「さぁ何が見つかるかな？」と期待に胸を膨らませていたところ、角を曲がるとすぐに「どん」という看板とともに
「キムタマ丼」の文字が目に飛び込んで来た。

以前から「お前もコラム書け～よ！」と上司よりプレッシャーをかけられていたせいもあって、使命感からか吸い寄せられるようにお店の中へ…

店内はカウンター９席に、壁際にテーブルがひとつ。既にカウンターは満席のため、僕はテーブル席に着くことにした。心の中では「キムタマ丼」まっしぐらだったのだが、一応メニューに目を通してみることにした。その中には他にも僕の心をくすぐる「丼」がたっぷりと勢ぞろい。常々「ごはんの良し悪しを見極める味覚を養え！」と教わっている我等営業部員は、外食時にもまず「臭い」から入って「ねばり」「甘味」「風味」と白ごはんを味わうよう言われているのだが、一口目からどんどん胃袋に送り込むタイプの、どんぶりやカレーライスがたまらなく好きな僕はほんまにメニューを見るだけでそんな話しは頭から飛んでいた。余談であるが僕の長男Y（３歳）も「何が食べたい？」と尋ねると、決まって「どんぶりかカレー！」という答えが返ってくる。親子ってほんま似るもんですねえ。

そんなことを考えている間に、気のよさそうなおっちゃんがお茶を運んできた。それをテーブルに置くと同時に「裏にもメニューあるで！こっちは海鮮もんやけどなっ！」
確かに裏には海鮮もんの丼がこれまたずらり。でも僕は、第一印象から決めてましたという思いとともに「キムタマ丼」を注文。
ふとカウンター内に目を移すと、なにやらお菓子のおまけのような小物が所狭しと並べられている。ラフティングのパンフレットも置いてあり、それを見ているうちに「キムタマ丼」の登場！

今回写真を撮るのを忘れてしまったので皆さんには親子丼の鳥肉の部分がキムチになったどんぶりを想像してほしい。ごはんの上には一口大のキムチが後乗せではなく、卵とからみあった状態で待機していた。思わず「うまそ！」という言葉が僕の口から漏れた。
その言葉にかぶせるように、おねえさんが「マヨネーズがまた合うんよ」「あっ！ええね。それ！」「んじゃ。半分だけかけとくなっ！」　お好み焼きにかけるような細い網目状のマヨネーズから覗くふわふわの卵にキムチのほのかな赤がアクセントとなり、食欲をさらに掻き立てる。もうたまらん。すぐにお箸に「ごはん」「卵」「キムチ」「マヨネーズ」をバランスよく乗せ、口いっぱいに放り込んだ。ちなみに僕は、どんぶりもカレーも出てきた形をぐちゃぐちゃに崩すのが嫌いで、「山崩し」の要領でできるだけ最後まで形を保ちながら食べるのを信条としている。硬めに炊き上げたごはんに卵とつゆがほどよくからみ、キムチがピリッとした辛味を主張しながらもそのすべてをマヨネーズがやさしく包みこみマイルドな口当たりに仕上がっている。しば漬け、なめたけのお吸い物を従がえて額にうっすらと汗を浮かべながら、あっという間にどんぶりをからっぽにしてしまった。
これだけの満足感をいただきながら、御代は一杯550円。これまたうれしい限りである。

僕が最後の”かっこみ”（これがまたどんぶりの魅力）にはいった時には、既に他のお客さんも闘いを終え、店内には僕ひとり。この後にとんでもないデザートが待っていたのだ。
ここのおねえさんとの“しゃべくり”である。僕の長男と同い年の子供さんがいるようで、話題は子供の話から店の話題へと移っていった。
なんでもこのお店は、お父さん（先程海鮮丼を薦めてくれた方）が魚屋さんを営んでいて、最初は海鮮丼のみのメニューであったが、お客さんのリクエストによりかつ丼から始まって様々な丼がメニューに加わったようだ。しかもここはやまびこ打線で有名な池田高校の生徒が頻繁に訪れ、新メニューのほとんどが彼等のアイデアだという。今ではそっちのメニューを注文するお客さんが多く、オープン当初にかかげた海鮮丼の短冊は影を潜めていた。その話を聞くと、「さっきお父さんが海鮮丼を薦めてくれた時、もっと話を聞いてあげれば良かったな…」と食い意地のはった自分を少し悔いた。

そしてそれ以上に圧巻な話があった。「どん」にはこういう店には珍しく「大盛り」の表示がどこにも載ってないのだ。そのことを尋ねると、以前カウンター正面に「大盛りは同料金です」という張り紙をしていたところ、女性３人連れのお客さんが「同じ値段やったら大盛り頼もうよ。食べれなかったら残したらええやん！」という声が聞こえた瞬間、おねえさんはスタスタと歩み寄りその張り紙を目の前でビリビリと破いたらしい。この話に僕は心から拍手を送った。
最初から食べ物を「残す」ということを考えていること自体が不愉快だし、なによりも作る人を馬鹿にしている。このお店には取材の申し込みも殺到しているらしく、おねえさんは「取材は一切受けない。私忙しいの嫌やから。まぁVOICE21（これまた四国ローカル番組）がきてくれるんやったら考えるけどなっ！」と言っていたが、単に忙しいのが嫌なのではなく、自分の理想のお店を築き上げるために席数も絞り、メニューもお客さんの意見を反映させているんだろうなぁと、ほんまに応援したくなった。食事内容もさることながら、ごはんを扱う人の人柄に強くひかれたお店であった。

おなかも心もいっぱいになってお店を出て、もう一度表のホワイトボードに書いてある「おすすめメニュー」の「キムタマ丼」の文字に感謝の意をこめて背中越しに確認すると、さっきは空腹のため気付かなかったのだが、「キムタマ丼」の横に小さく「あの高田君も絶賛！」という文句が…。誰やねん！　

食堂メモ

店名	どん
住所	徳島県池田町（駅前の商店街内）
休み	不明
TEL	不明
営業時間	PM2：00～PM5：00